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京都家庭裁判所 昭和48年(少)3084号 決定

少年 O・B子(昭二九・八・一九生)

主文

この事件について審判を開始しない。

理由

本件送致事件は「少年は朝鮮人であるが、昭和四八年七月五日午前一一時三五分ごろ、滋賀県大津市○○○町地先市道ホテル「○○」前路上で、その外国人登録証明書を携帯していなかつたものである。」というにある。

ところが、本事件を受理した大津家庭裁判所が、これを少年の住居地を管轄する当裁判所に移送することとし、その旨を少年に通知したところ、少年から本件送致事実は自分に全く身に覚えのないことであると申立ててきた。

そこで、本件事件記録およびその後の警察の捜査による関係書類追送書、当庁調査官の調査結果等を徴すると次の事実が判明した。すなわち、K・J子なる者(本籍・・朝鮮忠清南道○○郡○○面○○里。住居・・○○女子少年院内。昭和三七年七月一九日生)が、昭和四八年七月五日外国人登録証明書不携帯で取調べを受けた際、少年の氏名、本籍、職業、住居(ただし同人は住居を京都市○○区○○○○○町××番地と称したが、少年の住居は同町×番地である。)を詐称し、かつ年齢を昭和二八年六月四日と称し、同人を取調べた滋賀県堅田警察署は、その供述にもとづき京都市○○区役所に外国人登録証明書を照会したところ、O・F子なる少年が実在し、本籍、住所、職業は照会のとおりであるが、生年月日は昭和二九年八月一九日であつて未成年であるとの回答を得、さらに同人の申立てた住居先に電話で保護者に照会したところ、少年の母親から少年がK・J子の申立てた喫茶店に勤務していることの確認を得た。そこで、同警察署は少年が被疑少年であつて生年月日を偽つたものと判断し、七月三一日電話で少年の出頭を命じたところ、少年は「警察に行く必要がない。」と答えるのみで警察の用件を聞かないまま電話を切つてしまつたため、それ以上の捜査をしないまま、その生年月日を前記区役所の回答どおりに訂正して八月七日少年O・F子の名義で本件を大津地方検察庁に送致し、八月一五日、同地方検察庁において大津家庭裁判所に送致したものである。

ところで、以上のように許称された者が実在し、かつ捜査機関において以上の経過のように被疑少年を特定した場合は、家庭裁判所に送致された者は、少年の氏名等を許称したO・F子ことK・J子ではなく、実在する少年本人であると解するのが相当である。そこで、少年は氏名を許称されただけで本件送致事実の非行がないことは前記認定のとおりであるから、少年法第一九条第一項により審判を開始しないことにし、主文のとおり決定する。

(裁判官 折田泰宏)

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